Abercrombie & Fitch

2011-06-07

後に庶民にも広がってゆきます

Filed under: アバクロ — admin @ 20:12

平安時代に衣替えアバクロの歴史始まるとされています。

衣替えの歴史そのものは、1000年前後続いているものと思われます。しかし元々宮中行事であった衣替えは、その後の歴史の中でもいろいろ形を変えてきました。衣替えは、当初は現在同様に、主に衣服を取り替える行事でしたが、鎌倉時代になると、衣服だけでなく、調度品までもが取り替えの対象となります。
その後の歴史においては――江戸時代になると、着物の種類が増えます。このことを受けて、幕府では公式に年4回の衣替えを制度化し、実施していました。この習慣は、後に庶民にも広がってゆきます。明治時代になると、今度は洋装が広がります。まずは国家公務員が、政府によって洋装を制服として定められますが、ここにおいてもやはり衣替えは存在しました。アバクロ レディース水着明治6年からは太陽暦も取り入れられたこともあり、時期は現在と同じ、6月1日と10月1日になります。この流れも例によって次は学生や庶民に及び、現在とほぼ同じ形態となったのです。衣替えの歴史は、同時に衣服の歴史でもあるのですね。四季がない土地なら一年中同じ衣服でOKですが、季節の変化があれば、当然気候に合わせて衣替えをする必要があるからです。

2011-05-28

2011アバクロ 新作 夏服を販売店

Filed under: アバクロ — Tags: — admin @ 01:33

当サイトが手ごろの価格で人気なブランドのアバクロ製品を通販します。2011アバクロ新作 夏服がたくさんがある、今日はアバクロ メンズTシャツを紹介します

アバクロ を通信販売しているオンラインショップ です。素敵な商品やお店を探している方におすすめ。あなたの欲しいモノがきっと見つかる!アバクロの直輸入品をいち早くお届けします。多くのお客様に信頼 をいただきリピーターとしてご利用いただいております。全ての商品の発送は入金の順位によって行っております。或いは、ご入金の予定日付を頂いて、ご入金 の前になるべく一時商品を保留させていただきます。
当サイトは、お客様からのご信頼を第一に、お客様のお買い物し易いショップ作りを日々心がけを運営しております。ごショッピングの満足を得させることは 当サイトの目標です。もしご意見、ご要望などがありましたらお気軽にご連絡ください。ご協力をよろしくお願いいたします!

2011-05-09

今年の夏のバカンスはアジアリゾートでセレブな気分をという人も多い

Filed under: アバクロ — admin @ 20:50

今年の夏のバカンスは アジアリゾートでセレブな気分をという人も多いと思います。アバクロ
エキゾティックなアジアのビーチリゾート、特にタイのプーケットやバリ島などきれいなビーチリゾートは 今年も人気だそうです。
ビーチリゾートの休日は 海辺やプールでゆったり過ごすのもいいですが リゾートファッションのお洒落も楽しみの一つですね。

今回ご紹介するエレスは高級ランジェリーでも有名ですが 水着もパリで 最も人気のあるブランドです。
アジアのリゾート地でファッショナブルに過ごしているフランス人のように、エレスの水着のお洒落術を紹介します。
5日間ビーチリゾートに滞在するとして 水着をうまくコーディネイトすると いろいろなお洒落を楽しむことが出来ます。
ビーチリゾートでの水着は 泳ぐためだけでなく ジーンズやパレオと組み合わせれば お洒落なビーチカジュアルファッションになりますし 夜の夕食の時は アクセサリーを組み合わせてちょっとしたパーティファッションも楽しめます。

シンプルでカッティングの良い水着最低3着持っていくことをおすすめします。ビーチリゾートでは 水着でいろいろなファッションのバリエーションを楽しむことが出来るのです。
今年もっとも人気のある水着は 写真のようなホルダーネックのビキニ。
白い砂浜のビーチで しっかり焼きたいという人におすすめの水着、エレスのビキニは カッティングがよく素材も伸縮性があるので体にぴったりフィットします。ボディラインをきれいに見せてくれる水着です。

そして エレスの水着はセパレーツを単品で購入できるので トップスとジーンズを組み合わせたり 2タイプの水着を配色で組み合わせることもできて便利です。

写真のようなブラックやブラウンの水着は 大人の女性が似合う色カラダをセクシーに そして引き締めて見える色です。セレブには必須の基本カラーです。

ビーチリゾートの夜は社交の場、夕食をとるレストランでも昼のラフなカジュアルファッションとはちがったシックにドレスアップしたいものです。

特にビーチリゾートのパーティファッションは 首から背中を美しく見せることがポイントです。ブラック水着にブラックのパンツやフレアースカートを組み合わせて アクセサリーをつけるとパーティファッションになります。
写真の三角ブラの水着 エレスでも好評のデザインです。ボトムのアンドレアは 短いスカートつき、情熱的な赤の水着は 真夏の太陽に輝く白い砂浜にぴったりのデザインです。
最後にエレスのパレオを紹介します。水着と同色のパレオ、水着にさりげなく巻きつけたり 写真のように腰に巻きつけロングスカート風に着てもお洒落です。
エレスの水着のお洒落術いかがでしたか。
水着は泳ぐためだけのものではなく お洒落を楽しむための下着になったり、ジャケットインナーになったり、パーティウェアーになったり。
水着をうまくコーディネイトすることにより ビーチリゾートでのセレブでお洒落な休日を楽しむことができますね。アバクロ 新作

2011-01-23

ネクタイとシャツの組み合わせる 方程式

Filed under: アバクロ — admin @ 23:55

 ネクタイとシャツの組み合わせる固定な方程式がないのです。勝手にしても大丈夫ですが、心楽しいだけでいいのです。でも、心楽しいって何かわからない男子たちは下の基本的な規則は有効でしょう。
ネクタイとシャツの基本的な組み合わせる方法
すべての男子は少なくとも1件の白いあるいは青い紳士シャツ。ネクタイの方は少なくとも紺あるいはワインレッド のが昼間時に使え、また花絹のネクタイあるいは黒いネクタイはパーティーの時に蝶結びの代わりに備えます。
ネクタイから
ネクタイは衣装の最も目を引くところので、ずっともっとも重要な作用があります。一般に、ネクタイと洋服のくみあわせは一番重要のです。重んじる観点から見ると上着の色はネクタイの基礎色のです。
シャツを選び
ネクタイと上着の組み合わせを決まったら、シャツを選ぶのは簡単になった。一般に、シャツの色はネクタイで第二重要な色とつり合うといいのです。図案といえば、ネクタイの図案はシャツよりもっと目立つのほうがよいのです。 時には、図案が鮮明なシャツとネクタイを選んでも大丈夫のです。でも、ネクタイの図案がシャツより目立つのほうがよいのです。
流行な組合わせ
 最近、モノクロな衣装組み合わせが流行している。ファッションしたいだったら、モノクロ色合い差シャツとネクタイにしようか。こんな組み合わせには、ネクタイの色はシャツより暗い方がいいですが、完全に同じな色でもよいのです。
クラッシク組み合わせ
永遠なファッション組み合わせは白いあるいは青いシャツと明るい図案があるネクタイのです。これはずっと流行遅れない組み合わせで、どんな場合にも適切のです。
感覚
服装の組み合わせで、簡単のがずっと一番のです。もしネクタイを選ぶのは下手だったら、これが一番の選択のです。
調和
服装を組み合わせる時、 すべての細い点を考慮に入れるすべきです。シャツ、ネクタイ、洋服またほかのものです。すべてものはほかのものとある程度の関係があるほうが一番のです。夫婦の関係みたいで、交流がないと調和がないのです。
  

関連リンク: アバクロ   アバクロ ダウン

2011-01-12

初めてハイヒールを体験する

Filed under: アバクロ — admin @ 02:48

服に組み合わせることができるため、新年を祝う時はひとペアのハイヒールを買って、恐らく6,7センチメートルの高さがあって、どこに店の中で、試みているのがとても、楽だと思い付いて、歩いて醜態の限りを尽くすことを身につけています。気軽に小さくいくつの歩に、そぞろ歩きをしてなんと問題がなくて、歩いて百メートルの道を上回ります。面倒をかけることがあります。痛みが歩いて、言わないことを我慢して、双足はとてもこわばって、他の人が見ていて足どりのようです便利ではありません。子供を生んでから後で、すべて低いことのと靴を着ました。と昨年末に、組を買ったのはとても高くて、更に本当であることを身につけていて、少し慣れません。かつて、私はハイヒールを着て、花嫁の介添え人になって、一日歩いて、足の上ですべて、長い泡。私も過大に、サンダルを買います。着た後に歩くことができなくて、ゆっくり移動することしかできません。昨年末、私はまたふと思いつい、組を買って、身につけていますががとても痛くて、とても疲れて、しかしメンツを重んじて、顔はまたとても、満足する様子を装います。街をぶらつく時、1家の商店に入って、腰を下ろして、二度と立ち上がりたくなくなりました。ハイヒールに対して、愛しましたり,恨みましたりするのです。靴は足にぴったり合って最も重要で、ハイヒールを着て、確かに女の人の味の1時があることに見えて、体の割合は少しきれいです。でも選択は、自分の高度によって、最も重要なことは似合うのです。おしゃれな自分に苦労をかけないでください。

関連リンク:アバクロ メンズ

2011-01-11

魔術師組合という小説を転載ー受難4

Filed under: アバクロ, 転載小説 — admin @ 03:13

 需品課本来の仕事は、組合員に貸し出す備品の在庫調整や新製品の査定、買い付けといった、主に魔導具そのものの管理全般である。就職後しばらく、倉庫の中で自慢の腕力をもって奮闘した結果、ネーナは若くして課長補佐に抜擢された。半年前のことだった。アバクロ

 魔導具の中には、それ一つで城が建つほど値が張るものもある。そういう代物をじかに管理する需品課長ともなれば、宮城に出入りすることも可能だ。その補佐をするとなったら、特級魔導具などのお宝に触れて眼福にあずかることもあろう。
 大食いと怪力だけが取柄の自分が、学院の筆記試験の開始直前には教授たちに必ず「落ち着いて、問題をよーく読みなさい」と念を押され続けた自分が、成績評定表には常に「評価不能」と書かれ続けた自分がまさか――と感激に打ち震えたのも束の間。待っていたのは特級魔道具ではなく、サイン待ちの紙の山だった。

 ネーナは両手を腰にあて、むんとうなってデスクの上を睥睨する。
 山積みの書類は年末から少しもかわることなく――いやむしろその高さを増して彼女を待ち受け、サンプルにと組合員がもってくる匙やら金槌やら使途不明な小物やらのおかげで、デスク周りで荒物屋が開けそうな勢いである。快適な勤務環境とはいいがたい。
 しかも先ほどから、ランチを終えて戻ってみたら忽然と姿を消していたペンとインクを探しているのだが、残念なことにこの偽荒物屋の品揃えにはないようだ。大方それを持ったままどこかに置き忘れてきたのだが、己の行動を遡って省みられるようならば、いまごろもっとマシな人生を送っているにちがいない。

「……バニー、ペン貸して」
 書類とガラクタの河を越えた隣のデスクに向かい、せっせと新たな書類を生産している同僚に声をかけるが、彼は下を向いたままひらひらと手を振った。
「またなくしたのぉ? いやぁよーぅ。さっき庶務からもらってきたばかりなのに、ネーナが使うと半日で軸から壊れちゃうもの」
「なんだとぉ!? いいからよこせ、バカマ! 壊れたら作ればいいだろうが! 広場で鳩でも捕まえろ!」
「ね、ネーナったら凶暴だわ……しかもいまどき羽根ペンって……」

 怯えて潤む小さな目を見ないようにして巨大な手からペンをひったくり、インクもないことを思い出して無言のままバニーのものを分捕る。
「今日中にこの山を半分に減らす。そして黒山羊亭でおいしいもの食べて飲んで帰る」
「素敵な計画だけど、ちょっと無謀だと思うわぁ。その山、この半年ほど高くなったり低くなったり、ちょびっと動いてるだけよぉ?」
「シメられたいなら、はっきりそういえ」
 地の底から響くような声ですごむと、バニーは首を振りながら小さくなった。
「そんなに怒ったらお肌にわる――ごめんなさい」
 いらぬ一言を地獄の門番みたいな視線に遮られ、小山の化身が顔をそむける。

 山の上から書類を取り上げて広げ、関連資料を背後の棚から引っ張り出す。垂れてきて邪魔な長い巻き毛は、床に落ちていた麻紐を拾い上げて適当にくくった。キラキラフリフリ好きな同僚が、哀れむような非難するような眼で見ているのがわかったが、完全無視。

 サインするだけで済むようなものを優先して片づけ始めたところに、新たな書類が積まれる。芽生えた殺意を飲み込んで顔を上げると、ジールが眼鏡越しに自分を見下ろしていた。
「……なんだ、ジールか。不景気なツラでここに現れんなって、いっつもいってんじゃん。士気ってヤツがガタ落ちすんだよ」
「八番街東の人形師から、魔導力増幅装置の改良用治験データが届いた。若干サンプル数が少ないようなんだが、認可できるかどうか検証してくれ」

 目元に垂れる淡い金色の前髪の隙間から、青緑色の瞳が心持ち眇められているのが覗けた。朝の出勤途中はともかく――薄焼きパイに罪はない――、人の話を聞かず早口で自分の用件を突きつけてくるこの秘書モードのジールが、ネーナは嫌いだった。
「いますぐぅ? わたしがぁ?」
「無論」
 きらっと眼鏡の縁を光らせての間髪入れぬ返答に、ネーナは再び膨らんだ殺意をため息とともに吐き出す。
「すぐは無理だよ。生体魔導学の研究用じゃなく、普通の人形用の装置だろ? そんな急がんでも」
「この人形師のパトロンは流行り物好きのダイン伯だ、早く商品化できれば相当な数が出るだろう。それにこの分野の研究はうちが他国に先んじている、一歩でも前に進むことに吝かでない。うまくすれば軍の需品にも食い込める」
「……儲け第一の非人道主義者め」

 恨みがましい声を承諾ととらえたか、秘書は満足げにうなずく。軍人のような身のこなしで踵を返しざま、片眉を上げてネーナを流し見てから需品課を後にした。いまさら即売会で仕事を押しつけた意趣返しか、と一瞬うがった考えが頭をよぎる。
 すらりとした後姿がドアの向こうに消えるのをなんとなく見送って、ふとデスクに目を戻すと、山の上に小さな紙袋が置いてあるのを見つけた。飾り気のない生成りの袋を何気なく手にとって振ってみると、かさついた音と甘い匂いが香って、中身がクッキーだと察知した。

 慌てて袋の口を広げると、勢いあまってビリビリと破れ、狐色の菓子が次々とこぼれ出る。一体どこに持っていていつの間に置いて行ったのか、それはジールの差し入れだった。
 おめざは毎朝だが、彼はたまにこうして、気づかぬうちに菓子やらパンやらをネーナのデスクに置いて行くのだ。お礼をいうことはないが、いわれたい様子でもないから気にしない。遠慮せず、赤い木の実があしらわれたクッキーにかじりついた。デスクワークは腹が減る。昼に食堂の日替わり定食を大盛りで二人前食べたのとはまた、話が別だ。
 奥歯でばりばりと咀嚼しながら、二枚目のクッキーを唇にはさんで立ち上がる。広げたばかりの資料をたたんで、それをしまいつつ指定された治験のデータを探す。

 魔導力増幅装置――それは小さな器械と魔法界第一層第一位階、つまり法界の最表層とをリンクして魔導力を高速循環させることで、半永久的に駆動するユニット。初期型が、魔術師が魔法界に流した魔導力を、増幅させて器械に戻す構造だったため、現在も便宜上そう呼ばれている。
 詳細は開発者の秘匿特権で保護。ただ素材がある特殊な天然魔導鉱の核に近い部分であることと、加工にも安定にも高度な魔導工学と魔導具を用いる超高級品であることは有名だ。

 三年前にこれができてから、人形師の階級(ランク)はドカンと上がった。体内に埋め込むだけで、人形が命を吹き込まれたかの如くひとりでに動くようになったからだ。その行動は、魔術師があらかじめ組む魔導式次第でいくらでも自由に決められる。装置のロックが開発者の記名に呼応して解除される仕組みなので、模造品が出回る懸念もない。

 三十年前を最後に、戦渦から遠ざかった大国、トランティア女王国。終戦当時、日常を取り戻そうとするように人々は躍起になって文学や芸術、建築や美食といった中に娯楽を求め始めた。結果、現在のトランティアは「西大陸の華」とも呼ばれる絢爛で豪奢な文化を享受している。
 この平和なご時世にあってヒマもカネも持て余すトランティア貴族の間で、いま最も流行しているのが、魔術師組合認定印の入った装置を組み込んだ人形集めなのである。魔術師のような知識や魔導力がなくとも、それらしい気分が味わえる、というのが売りだ。

 そのうち人間じゃなく人形がお屋敷を占拠するぜ、と鼻を鳴らしながら、ネーナはその光景を思い浮かべて悦に入った。人形一体で自分の年給など軽くとんでいくことに、なにか思うところがあるわけではない。
「人形、ねぇ……」
 キャビネットに突っ込まれたファイルの背を指でたどりながら、小さく疑念を噛み砕く。

 実のところ、これを作ったのは人形師ではないだろうとネーナは踏んでいる。
 随分長いこと操り人形から糸を省いたような代物しか作れなかったヤツらに、なぜ突然こんな高等魔導学を応用した装置を作り出せるというのだ。どれだけ隠れ忍んで研究したら、こうまで唐突に、しかも完成度の高い製品を持ってこられる。またこれだけ独創性と意外性に富んだ研究をするのに、どこに隠れ忍ぶ必要があるのかわからない。結果を見てもまだわからないという魔導工学の専門家がほとんどなのに、課程だけを盗み見て模倣できるわけがないのだ。
 でもだれが開発しようと、ネーナの知ったことでもなかった。
 申請したヤツの勝ち、売り出したヤツの儲け。それが生き馬の目を抜く魔導具開発の世界だ。

「うーん、どこだ。どこだどこだ……」
 めちゃめちゃにファイルが詰まった棚をあさりながら、歌うようにつぶやいた。
 治験データの検証には、厳密なルールがある。そんなものをいちいち覚えちゃいられないネーナが手順を書き記したファイルを引きずり出したところで、再びデスクに新たな書類が置かれる気配がした。
ネーナはクッキーを飲み込みつつ、振り向きもせずいった。
「なんだか知らないけどすぐは無理だからね!」

「だが俺のためなら、手を空けてくれるだろう?」
 鼓膜を揺らす低い声に、足のつま先から頭のてっぺんまで痺れるような寒気が走り、束ねた髪が顔をはたく勢いで振り返る。口の端から、クッキーの欠片が飛んだ。
 紙の山の向こう側で薄く微笑みを浮かべていたのは、濃灰色の詰襟の上に紺色のマントを羽織った、あの(・・)騎士であった。

「ファイス……スタイクス、様」
 悪夢のようにうめいたのはバニーだ。名を呼ばれた騎士はにっこりと魔王の笑みを惜しげもなく披露し、ネーナに向かって手を差し伸べた。
「組合長から書類を預かったから、ついでに届けた。さ、行こうぜ」
 また書類かよ、と言うべきなのか。あんたに持ってこさせたのか、と言うべきなのか。はたまた、行こうぜってどこにだよ! と叫んでみるべきなのか。

 悩んでいる間に彼はついと歩み寄ってネーナの手から紙の束を取り上げると、それを後ろも見ずに肩越しでバニーに放って、おもむろに肩を抱き寄せてきた。ガラクタの大河は、長い脚で一跨ぎだった。
「ボスは快くおまえを貸し出して下さった。遠慮なく行ってこいとさ」
 目の前に突き出された紙きれに目をやると、それは備品の貸出申請書。品目の欄にはネーナの姓名、期間は本日ただ今より――無期限。認証印は、見まごうかたなき組合長のものである。

「わたしはモノか! 無期限ってどういうことだよ、ムチャにもほどがあるだろ! そもそも、なんで職場にあんたが現れるのか理解に苦しむッ」
「待ち合わせの約束をしただろう? でもおまえは現れそうになかったからさ」
 図星である。
 確かにネーナは今日、急用ができるか腹を下すかして、約束の場所に行かれなくなる予定だった。
「そ……だからって――」
 黒竜騎士サマが。わざわざ。街中に。魔術師のギルドに。一般市民を迎えに?
 いいたいことをすべて飲み下して、かわりに巨大なため息を吐き出した。

 静まり返った需品課、みなが口をあけて注目しているのが見なくてもわかる。
 略装で所属が知れないとはいえ帯剣した騎士の装いで、しかも若い男が、よりによって魔術師としての賢さも女としての色気も、人としての魅力も壊滅したネーナの肩を抱いているのである。彼らもまた、一体どこからつっこめばいいのか悩んでいるのだろう。
 だれとも目をあわさないようにしながら歩き出し、ネーナは魂が抜けそうなほど深くため息をついた。

2011-01-06

魔術師組合という小説を転載ー受難3

Filed under: アバクロ, 転載小説 — admin @ 02:48

冬の休暇も明けて初日の朝、ネーナ・ヴァス需品課課長補佐は組合の通常業務に戻るべく元気いっぱい通勤途上にあった。
丘の上に建つ宮城の白い輝きを正面に、石畳の大路をひたすら歩く。弱々しくとも確かな陽光が東の空から差し込んで、キンと冷たく澄んだ空気にやわらかな 匂いを含ませた。湯屋から落とされた湯が運河に流れ込んで、川幅いっぱいにあたたかく白い煙を噴き上げる光景もこの季節ならではだ。

早朝のこの時間、都を放射状に走る大路は馬車の車列でちょっとした混雑を見せる。
彫刻や垂れ飾りと家紋入りのプレートで派手に主張する車体は女王宮へ参内する貴族、地味を装った高級素材の車体は商人を乗せている。宮城内の官舎でもなく、二番街の豪邸街に住むでもない中級軍人は、馬車でなく馬に乗って混雑に拍車をかけていた。

それを横目に歩道を闊歩するネーナの服装は、白いブラウスにハイウェストの黒いスカート、黒い腰丈の上着と、組合の制服でフル装備だ。襟元に締める赤い リボンは職場のロッカーに突っ込んである。義父のくれた高級コートのおかげで魔術師組合の職員であることが隠され、通行人から余計な憧憬の視線を向けられ ないですむのがいい。
それでも栗色の長い髪をなびかせ、足取りも軽く歩むネーナは人目を引いた。しかしいまは朝食に食べたペストリーの味を思い出して陶然としていたので、本人がそれに気づくこともない。

三番街の職場を目指して歩いていると、四番街の街門を越えたあたりで後ろから声をかけられた。
「おい」
という遠慮も愛想もまるでないその声には、覚えがあるなどというものではない。ネーナは渋々立ち止まり、襟の毛皮に頬を埋めるようにして振り返る。
果たしてそこには、親愛なる組合長秘書の姿があった。

「……おはよ」
口の中から消え去ったペストリーの味を惜しみながらも、朝の対面にふさわしい挨拶を述べる。落ちこぼれとはいえれっきとした社会人であるからには、好かない男にも挨拶くらいはするのである。
ジールはわずかな光でも吸収してキラキラと輝く淡い金髪を揺らし、ネーナの前に立って眼鏡の縁を押し上げた。冬の空気にも負けないくらい、冷たい表情のままで。

「新年最初の仕事から職務放棄とはいい度胸だ。服務規定違反で減給されたいか」
いきなりかよ、とネーナは唇の端で舌打ちした。悪夢と化した即売会の昨日、異常事態に巻き込まれたまま会場をばっくれたから、彼に面と向かうのはこれが新年一発目だ。なんかもっということあるだろ、と思いつつ、ネーナは歩き出した。
「あんたパパの秘書だろ、給与査定も仕事のうちかよ。それとも隠れ監査のバイトでもしてるわけ」
「朝っぱらから可愛くないことを。やらんぞ」

意味不明な言葉に訝しく思って顔を上げると、ジールは眼鏡に触れていた手の中に小さな紙包みを握っていた。見覚えのあるそれに、ネーナは口いっぱいに唾液があふれるのを感じた。
「やだなぁ、ちょっとした社交辞令じゃないか。よこせこらっ」
満面の笑みで瞳を輝かせ、ネーナはジールの手から包みを奪おうと跳び上がる。だがそれほど背の高くないジールが相手とはいえ、手を掲げられてしまうと、同じく背の高くないネーナには届かない。

「埋め合わせは?」
「は?」
ジールの胸倉をつかんでぴょんぴょん跳ねながら、精一杯手を伸ばす。彼はその手を頭の上で捕まえて、ぐいと顔を近づけてきた。
「おまえの代わりにこの俺が撤収まで働いたんだぞ。無事に休日手当てがほしかったら、感謝を示してほしいものだな」
楕円の眼鏡の奥に青緑色の瞳を覗き込み、ネーナは鼻に皺を寄せて顔をしかめた。

「アリガトウゴザイマス。はい感謝した、それよこせ!」
胸倉からはなした手で、紙包みを奪い取る。逆の手はつかまれたままだったので、歯を使って紙をやぶいた。その若い娘にあるまじき粗野な仕草にジールはため息をついたが、ネーナはおかまいなしで包みの中からこぼれたものに歓声を上げる。

ネーナの口でちょうど二口ほどの大きさ、薄い生地にジャムを挟んで焼いたパイ。仕事がある日はこうして毎朝ジールがくれる、ネーナの大好物だ。休暇中はもちろん会わなかったので、実に十日ぶりの味だった。
「久しぶりぃッ! いっただきまーす!」
恥じらいもなく大口開けてかぶりつくネーナを、ジールがつないだ手で引っ張った。ふ、と長く吐き出された白い息に彼を見上げると、その横顔は微笑んで見えた。錯覚か、と目を瞬いているネーナに気づく様子もなく、ジールは正面を向いたまま規則正しく歩いている。

目に優しくないキラキラの金髪と青緑色の瞳。北方の大国ダリトス出身の特徴も顕著なこの男は、真っ黒なインバネスの襟を飾る炎と杖の紋章で、隣に並べば せっかく一般市民にまぎれたネーナをも目立たせる。まぁ本人がそこそこ綺麗な顔をしているのも一因、ということも認めないではない。あの国の人間は、大抵 が細面でバランスのよい顔立ちなのだ。

ダリトス人の割には中背だ、バニーのほうがよっぽどそれっぽい、と頭の中で相棒を金髪碧眼にしてみて、あまりの似合わなさに吐き気を覚えた。
脳内の口直しに二つ目を要求する手を突き出せば、無言でそれに応じてくれる。いつかジールのポケットを引っくり返してあさってみよう、とネーナは心に決めていた。一体いくつ菓子の包みを仕込んでいるのだろうか。
だが二つ目も飲み込んでから尋ねたのは、別のことだった。
「ねえ、これどこで売ってんの? いい加減教えてよ」
「俺の縄張りを荒らされたくないから秘密だ」
毎度お決まりの回答に、ネーナはぶうとふくれた。

ジールがくれるおめざは決して珍しいものではないが、ネーナの知る限り最も美味だ。パイもジャムも絶品なのだから、きっと他の菓子も美味いにちがいない。しかしジールは絶対に店の場所を教えてくれないのである。
「ケチな男は嫌われるよ」
仕返しに自慢の怪力で手を握りしめてやったが、ジールは眉一つ動かさない。かわりに空いた手を伸ばしてネーナの頬に触れ、口元の菓子屑を払ってくれた。
「女ウケを狙うなら、まずおまえにやらない」
「あっそ」
ネーナはおとなしく菓子屑を払われながら、ブーツの踵でジールの脛を蹴飛ばした。

この眼鏡の悪魔とは、二年前、組合に就職したときからのつきあいだ。幼い頃世話になった孤児院を経営する貴族の後見は、魔導学院の卒業とともに打ち切られ、成人前だったネーナには新たな身元引受人が必要になった。そのとき養子縁組を申し出てくれたのが、組合長だった。
あまりに悲惨な成績を残して学院からとんずらしたネーナを哀れに思ったか、それともこんなイキモノを卒業生として社会に放つことを不名誉だと思ったか。学院総長でもある義父の立場を考えれば、後者であることは確実だろう。

とにかくも戸籍上の親となったチョビ髭親爺にくっついていたのが、このジール・バルツァーという秘書だ。正式な組合職員である総務課の秘書とはちがい、 彼は個人契約によって昼夜を問わず常に組合長の傍らにいる。必然的に、ネーナと過ごす時間も多くなるというわけだ。特に一人暮らしを始めた一年前からは、 四番街の入り口で合流して一緒に出勤するのが日課になっていた。

握ったジールの手の中に指先を丸め込み、そのあたたかさにほっとする。寝不足気味で頭はぼんやりするし身体は火照っているのだが、ネーナは指先が異常に 冷たい。寒いのも大嫌いだ。ジールのことは別に好きでもなんでもない、というか天敵とすら思うけれど、この時期だけは手をつなぐ相手がいるのは悪くなかっ た。
「ねえ、昨日って売り上げどんくらい?」
ガラガラと騒がしく車輪を鳴らす馬車に負けじと声を張る。ジールは少し考えて、顎先を長い指でつまんだ。
「需品課の年間総売上の約三割」
「げっ、マジ?」

頭の中で咄嗟に鍋何個分だろうと考えそうになり、やめた。組合で扱う需品の多くは組合員への貸与品だし、売るとなったらそれこそスプーン一本から給料何年分もの魔導具まで種類は豊富だ。
「うちの売上なんて一定してないじゃないか」
二年間しか在籍していなくともそれくらいはわかる。ネーナはなんの参考にもならない引き合いにむっとした。
ジールはくす、と知覚のぎりぎりでかすかに笑っただけ。
後は会話もなく、ただ歩いて職場へと向かう道のり。だがネーナは、この時間が決して嫌いではないのだった。

2011-01-03

魔術師組合という小説を転載ー受難2

Filed under: アバクロ, 転載小説 — admin @ 01:30

闘技場の前では、チケットを高値で転売する者や、温かい飲み物を売ったり買ったりする人でごった返していた。出場者の家族もいるのか、怪我をしないようにとか、もし優勝したらといった会話が切れ切れに聞こえてくる。
「裏口いこうよ、裏口。こっそり入れたらおもしろいじゃん」
「なにか食べなくていいの?」
「あとにする。バニーのオゴりで」

はぐれないように太い腕にしがみつき、ネーナは常になくはしゃいだ声でいった。
髪を結い上げて高価なコートに身を包んだネーナと、都一有名なギルドの制服をきちんと着込んでニコニコしているバニー。二人の姿は、傍目には身分違いの恋に身を投じた恋人同士に見えたかもしれない。
「バニー、いちいち雑貨屋の前でひっかかるなってば! そんな髪飾りどこにつけんだよ、ハゲのくせに!」
「んまぁ、ハゲじゃないわよ! 短くしてるだけじゃないの、ネーナの意地悪っ」
しかしてその実体は、口の悪い娘と繊細なオカマの親友同士なのであった。

人ごみと遅々として進まぬ列に悪態をつくネーナの口に飴を放り込んで、バニーは彼女の髪をなおしてやる。栗色の巻き毛を結い上げてやったのも、眉を整えて化粧してやったのもバニーだった。
「ネーナは黙ってたら美人なんだから、もうちょっと身なりと言葉づかいに気をつけなさいよ。さっきの髪飾りだって、あなたの薄茶の瞳によく似合ってたわ」
「めーんどくさーい」

鼻に皺を寄せて顔をそむけ、ネーナは壁沿いにどんどん進んでいく。ぶつかったり押しのけられた人の迷惑顔にも、おかまいなしだ。やがて出場者や裏方のスタッフが出入りしている扉を見つけると、バニーの後ろに下がった。
入り口に立っている兵士の制服を見たところ、王宮から派遣された警備らしい。そちらを顎でしゃくり、相方の鼻先にびしっと人差し指を突きつけて命令する。
「ほれ、魔術師組合デスっていえよ」
「え、えぇ? それって効果あるの? むしろ組合の名前は出すべきじゃ――」
「知ったこっちゃないよ。おなかすいてんだから早くしろ!」
「なんの関係があるのよぉ」

すごい顔で睨んでくるネーナと警備兵とを、おろおろしながら交互に見やっていたバニーが、あっと小さく声を上げた。
「見て、ネーナ! どっか行っちゃった!」
見てと言っておきながら、彼は振り返る間もなくネーナを肩に担ぎ上げて走り出した。振動でごつごつの肩が腹に食い込んでは吐きそうになるのをこらえ、ネーナは身をよじって進行方向を見やる。
「お、おぉ! でかしたオカマ!」
「オカマって言わないでッ!」

言い終えると同時に裏口から闘技場に滑り込み、バニーは天井から下がったカーテンの間をするすると移動した。ほどなく狭い廊下に行きあたり、小さな目をくりくりさせて周囲をうかがう。壁にかけられた蝋燭の明かりだけが頼りで、おそらくは出場者が控え室からアリーナに出るために使う通路だ。
「ここ、すごく入り組んでるのよねぇ……メイはどちらにいらっしゃるのかしら」
「高貴なお方は高い場所が好きって相場が決まってんでしょ。一番高いとこ行きゃいいじゃん」
二人の声は石壁に反射して、意外なほど大きく響く。

「私たちが行ってどうするの。おそばには近づけないんだから、お姿が拝見できる場所をさがすのよぅ」
「拝見とかいって、単なる盗み見じゃんよ」
バニーの肩に担がれたまま、ネーナはつぶやいた。
さっきの騒ぎで飴玉を丸々飲み込んでしまい、胸につかえている気がしてもやもやする。叩いてみても咳払いをしてみてもなおらず、いらっとした彼女はバニーの背中を力任せに殴りつけた。

「いたぁいっ! ちょっと、なにするのよぉッ!」
「うるさい! チケット買わずに忍び込んでるんだから、静かにしろ!」
バニーよりよほど声が大きいのは自分なのだが、そんなことは棚の上に放り投げる。
人に見つからないようしばらくウロウロしてみたが、絶好の覗き見ポイントもなかなか見つからない。観覧席の入り口で、係員がチケットを検めているのも一因だ。そのうち建物を揺らすほどの歓声が遠くから聞こえてきて、本日の第一試合が始まったことを知った。

「……おなかすいたなぁ」
「さっきは後にするっていったくせにぃ」
「いまの騒ぎで急に徒労感に襲われた、そうしたらおなかすいたんだよ。バニーのせいだ。なんとかして。飴はやだよ」
頭の上からきっぱりと言い切られ、バニーはため息をついた。ネーナの大食らいは今に始まったことではないし、彼がそのわがままし放題を許してきたのもまた、今に始まったことではなかった。

そっとネーナを床に下ろし、バニーは支給品のコートを脱いで足元に敷いた。観覧席近くの通路は、舞台裏よりは明るくて暖かいが、それでも石畳の上には座らせられないと思ったのだろう。たとえ相手が、大食いと力持ちだけが自慢の乱暴者であったとしても。
「ここに座ってて。絶対に動かないで。おいしいものをチラつかされても、知らない人についてっちゃダメよ?」
「わたしは子どもか!」
「あら、十七は子どもよ」
岩のような顔を笑みの形に作り直して、バニーはキョロキョロしながら通路の向こうに消えた。

バニーのコートに遠慮なく腰を下ろし、ネーナは膝を抱えて小さくなった。劇的な効果はなかったが、それでも尻にわずかなぬくもりは感じる。
自分の膝に額を押しつけ、目を閉じる。うねるような歓声が大きくなり小さくなり、心地よく耳をくすぐると、空腹よりも眠気が強まったように感じた。
(眠い……昨日、遅くまで仕事してたのがいけなかったか)
昨夜は今朝に備えて――ネーナにしては珍しく酒も飲まず――家に持ち帰った書類を相手に悪戦苦闘していた。

ドワーフの王国の略史と、産出される希少魔導鉱のリストの読み込み。それらを元にして造られる各種魔導用具の発注用書類の作成。経理課が出してよこした予算と、開発課が持ってきた見積は、天と地ほどの開きがあったように思う。
暖炉の前に広げた書類を思い浮かべるが、思い出せるのは表紙とタイトルだけで、内容はさっぱりだった。あんなに読み込んだのに。何度もノートに書き取ったのに。
「……やっぱわたし、本物のバカなんだな……」
わかっちゃいたけど、と盛大に息をついて顔を上げると、目の端に黒いズボンの裾が映った。

一瞬バニーかと思ったが、気配も足音もなかったことに気づいて身体が硬直する。それでもゆっくり、目玉だけ動かして脚から上の付属品を確認した。
まず剣を包んだ銀の鞘。赤い石が埋まった柄。幅広の相当な大剣だ、ネーナでもなければ持ち歩くのがやっとだろう。普通なら腰に佩いて平然としていられる大きさではない。きっと魔導鉱を例の魔術でちゃちゃっと細工して、変性させたものだ。自分の給料じゃあ一年分ではきかないな、と計算してしまうのは、需品課職員の悲しい性か。
磨き上げた黒いブーツのつま先、足首まで覆うたっぷりとしたマントの表は黒、裏地は暗い赤。銀糸で大きくなにかの縫い取りがしてあるようだ。魔術師のものに似ているが、材質があきらかに異なる。その人が腰に手をあてているために肘で布地が持ち上がっているが、そうでなければ袷が深くて服まで見えなかっただろう。

それから腰丈の上着。ベルトに竜の横顔を打ち出した銀のバックル、上着のボタンはかなり大ぶりでなにか文字が彫ってある。学生時代に記号学の授業で習った気もするが、ネーナには花や星と同じような絵にしか見えない。
そして左だけつけた肩当。――竜の爪を象った。

「……ま、さか……」
そして衣装の持ち主は、頭のてっぺんから顎まで覆う黒い被り物をしていた。ネーナの角度からでは、咽喉仏しか見えない。よく見ると薄い紗を重ねたその布は、きっと内側からなら外の様子がよく窺える。
額のあたりから頭部を、複雑な曲線を描く細い銀細工の輪で囲い、被り物をとめている。少々の風では脱げたりしないだろう。
全身黒尽くめ。正体を隠すように被った布。そして片方だけの肩当。

「……黒竜、騎士――?」
初めて見た、と呆けている場合ではない。

トランティア騎士団の頂点、黒竜騎士の実態は太子の親衛隊だという。今の太子はメイを名乗るガリオン王子。今ここに黒竜騎士が現れたということは、女王の名代であるメイに随行してきたというわけで。それはすなわち、この近くにメイがいるということに他ならない。
ネーナは貧血に似た眩暈を感じつつ、視線を下げてあわてて両手を振った。
「あ、怪しい者ではございません! ちょっと迷子になっただけで、メイを覗き見しようとかそんなことは!」
騎士は黙って、腰にあてていた手を上げて腕を組んだ。鞘が揺れて剣を吊った鎖がベルトにあたり、かすかな金属音が響く。

「の、覗こうとは、思ったりもしましたが……メイご本人にどうとか、そういうわけじゃ……」
よく考えたら、まだタダ見を目論んだことがバレたわけではない。しかしそれに気づいたところで、今さら誤魔化すにも手遅れだった。
「その……」
反応のない騎士に気圧され、口ごもった。遠い歓声が聞こえるたびに、なぜか絶望的な孤立感を味わう。
かすかな衣擦れの音に、ネーナは顔を上げた。

かしゃん、と銀の輪が飾りの鎖を鳴らし、黒い紗が引き下ろされ――騎士の顔が露になる。伏せていた瞼を開け、その騎士はまっすぐにネーナを見下ろした。
若い男。おそらくネーナといくつもちがわない。
ざっくりと伸びた黒髪は、首の後ろで束ねられている。尖り気味の顎、薄い唇、高い鼻梁。それらが形作る顔立ちは端整だが、なにより夏の空みたいに澄んだ明るい青の瞳に、ネーナは呼吸をするのも忘れた。

こんなに明るい青、見たことがない。

「あ……の……」
放心したまま、口が勝手に言葉を吐き出そうとする。すると騎士は眉を上げ、人の悪そうな笑みを浮かべた。
「なんだ、見惚れたか?」
はっきりとからかう低い声に、ネーナは我に返った。
「ち、ちがう、びっくりしただけです! 黒竜騎士が顔を見せるだなんて――」
今度は自分の発言に驚いて、言葉を飲み込んだ。

そうだ、黒竜騎士は主の前以外では絶対に顔を見せないはずだ。顔どころか、全身をマントで覆い、身体つきすらわからなくしている。そしてたとえ宰相閣下に求められても、決して一言も発さないと聞く。徹底して個人を特定させないのだ。

「……見せるだなんて?」
騎士の口元には余裕ありげな笑みが浮いたまま、眇められた目は明らかにネーナの様子を観察している。わかっているのに、釈明の言葉ひとつ出てこなかった。
高みから見下ろされることにも威圧されるが、空色の目にまっすぐ射抜かれて、文字通り床に磔にされているような心地になる。しかもその目はお世辞にも笑っているとはいえなかった。

「――ごめんなさい。そんなにメイのおそばに近づいてるとは思ってなくて」
ネーナが目をそらしてうつむくと、さっきより金属音が大きく聞こえて、彼が自分の前に片膝をついたのがわかった。
「そんな、この世の終わりみたいな顔をしないでくれよ。メイは試合をご覧になっておいでだ、近くはないさ」
一転、優しげな声とともに差し出された手を、まさか断れるはずもない。渋々とって立ち上がり、バニーのコートを拾い上げる。すると騎士はそれを指差して、なぜか不快げにいった。

「随分デカいな。話し声がしたのは……彼氏か?」
「は? いえ、これは友達のです」
あんな岩の怪物みたいなオカマがカレシだなんて、いまこの状況よりもありえない。
バニーのコートをたたもうとして、ネーナは気づいた。

炎をバックに、二本の杖をぶっちがいにした紋章――胸に大きく、魔術師組合のワッペンが輝いていることに。
「あっ!! あの! しょ、処罰されるんですか? どこに出頭したらいいんでしょう、騎士団の詰所ですか?」
背後に隠すには巨大すぎる布の塊を床に投げ捨て、ブーツのつま先で横に押しやる。
だが要人警護のプロに、稚拙な誤魔化しはきかなかったようである。

おそるおそる見上げると、騎士はその端整な顔から表情を消して細く長い指を顎にあてた。
「おまえのトモダチ、魔術師組合?」
「はぁ。いや――友達がっていうか、その、わたしもっていうか……」
しどろもどろで答えると、今度は頭のてっぺんからつま先まで、責めるように眺めてくる。その遠慮も容赦もない視線に気圧されながらもまだ、顎を上げてそれに耐えるだけの根性はあった。

(くそぅ、なんでこんなことに……ボスの呪いか? いや、ジールの野郎だ! 前から怪しいと思ってたんだ、あの陰険眼鏡め! 鍋の見張り番を放棄したくらいで、これだから根暗なガリ勉はいやなんだよっ。上昇志向のエリートなんか大っ嫌いだ!)
歯を食いしばって平静を装うその内側が、かなり支離滅裂になっていると本人は気づいていない。
いけすかない組合長秘書の首を絞める妄想に浸っているうちに、騎士はなんらかの結論に達したようである。
「もしかして、おまえ――」
いったきり、騎士は難しい顔で何事か考え込み、やがて首をかしげるようにしてネーナの顔をのぞきこんだ。

「メイに、会いにきたのか?」
「はぇ?」
思わず間抜けな声で聞き返したとき、騎士の背後から野太い悲鳴が響いてネーナの鼓膜を突き刺した。

「きゃあぁぁぁ! ネーナになにをするの、痴漢! 強制猥褻で訴えてやるーぅッ!」
床を鳴らして突進してくる怒れる小山。ぶちあたったら昇天できる勢いのそれを、ネーナを抱えて軽くかわした騎士は声を上げて笑った。
「痴漢に間違われたのは初めてだ」
「図々しいわねッ! ネーナを放しなさいったら、こ、の――」
猛牛のごとく見事なターンで振り返って正面から騎士の姿をとらえた岩石魔人は、おもしろいくらい顔色をなくして小さな目をいっぱいに見開いた。
「あ、あなたは――」

そして喜劇の大道具かと思うほどしゅーっと小さくなって、冷たい石の床に座り込んだ。
「うそ、だって、そんな……」
「あんた、早とちりの天才だよ、バニー」
自分たちがチケットなしで裏口から忍び込んだことを忘れて、メイの親衛隊を痴漢呼ばわりしたのだ。処分どころの話で済みそうにもなかった。
「仕事クビかな……もしかして牢屋に入るのかな……」
知らずつぶやいた言葉に反応したのか、バニーは心持ち立ち直った様子でネーナを見上げた。

「だ、だだ、だってだってネーナにキスしてるように見えたんだものっ! 泣かないでよ、ネーナ! 牢屋だってどこでだってが私が守ってあげるからぁ!」
「おまえは男用の監獄に行け!! あほか!」
「ひどーぉいぃッ!」
大きな石に窪みをつけて埋め込んだような小さな目からぼろぼろと涙をこぼし、バニーがネーナの腰にすがりついて泣く。その頭を抱えながら、泣きたいのはこっちだ、と思ったとき。
「確かに、メイの暗殺を謀った咎で罰することもできそうだな。俺が個人的に名誉毀損で訴えるのもかまわんが、公務中の黒竜騎士の素顔を見たから反逆罪でもいいな」

(顔!? 顔なんてあんた、勝手に見せやがったくせに――)
その場違いに愉しげな声に猛烈に腹が立ち、ネーナは騎士をぎっと睨みつけた。
「お好きになさればいい! でもこのオカマはちがう、わたしが忍び込むよう命令したんです。こいつはわたしに逆らえないから。それと、組合も無関係です。勤務中に不謹慎なことをしたのは確かですけど」
しかしネーナより頭一つ以上背が高い騎士は、彼女が睨んだくらいでは怯む様子もない。

「メイがご臨席される試合の会場に制服で忍び込んで、無関係ね。魔術師組合から、騎士団への挑発行為と受け取ってもかまわないぜ?」
返す言葉がなかった。
「うっうっ、いやよネーナ……まだ離れたくないわよーぅ」
おいおいと声を上げて泣く親友の頭を抱え、短く刈り込んだ硬い焦げ茶色の髪をなでながら、ネーナは唇をかんだ。かみやぶってしまう寸前、冷たい指が頬に触れる。顔を上げると、あの青い瞳がネーナの目を覗き込んでいた。
「全部、見なかったことにしてやってもいい。――そのかわり」
「そのかわり……?」
途方に暮れる思いで力なく見つめ返すと、騎士は端整な顔を傾けてネーナの耳に低い声で囁きかける。

「結婚しないか、俺と」
「え――?」
だが続く台詞は響き渡るひときわ大きな歓声に大半がかき消され、ネーナにこれは夢なんだと思わせた。

2010-12-31

魔術師組合という小説を転載ー受難

Filed under: アバクロ, 転載小説 — admin @ 03:23

ちらつく雪、視界を遮る呼気の白さ。しみしみと痛むような厳しい寒さの中で、なにをわざわざ朝っぱらから外で働かなくてはいかんのだ――。

今朝何度目かの身震いをしながらのしかかるような灰色の空を見上げ、ネーナは自分の腕を抱きしめるようにちぢこまる。接客の邪魔になるからと髪を結い上げたことが、心から悔やまれた。
「そろそろ開場だよ。営業、営業っ!」
その声に首だけ回して振り向くと、大テントの奥からパンパンに着膨れした中年の男がのそのそと品物をかきわけて外に出てくるところだった。その手からもうもうと湯気を上げる熱いコーヒーが入った真鍮のカップを受け取りつつ、ネーナは口を尖らせる。

「こんな寒い新年も二日目に、客なんてほんとに来るのかよ。しかもこんな、鍋だの釜だの干草だのを買いに」
「時代はかわったんだよ、ネーナ。魔導力の使い方も使い道も多様になったいま、潜在的な市場はもっと大きいはずだ! ただの鍋だの釜だのじゃないんだから、安心して売ってくれたまえ。その干草もね、ちゃんと東方からはるばるやってきた薬草だと説明しておくれよっ」
チョビ髭の端を丸めるようにして笑った男は、組合長、とテントの奥から呼ばれて立ち去った。
「……いまどき、触媒使う魔術師なんて少数派じゃないか」
ネーナは上司であり義父である男の丸々とした後ろ姿を見送り、ため息混じりにコーヒーの湯気を吹く。遠くで小さく鐘の音が響き、休日出勤の彼女に本日の始業を告げた。

大陸の西端にあって北は峻烈な山脈を望み、東は広大で肥沃な平野、南に穏やかな内海を擁する大国トランティア。偉大なる女王の統べる、長い歴史の証人。国の東西を貫く大交易路の出発点であり、終着点でもある王都トランティア・トリッタは、人口百六十万の巨大都市である。
多彩な人種と多様な価値観が交差するこの都には、実に多くの大陸一が存在する。
宗教施設の数、軍隊の規模、都中に張り巡らされた水路の総延長、駅馬車や郵便制度の充実でも一番といっていい。しかしトランティア人にあえて選べと迫ったなら、口をそろえてこういうだろう。
ここは大陸一の魔導都市だ、と。

トランティア魔導学院――在籍する十歳から二十二歳までの学生は、およそ五千人。教授・講師・職員の総数は八百人余。その経営は学院卒業生が多数加盟する魔術師組合が行い、宮城の実に半分にあたる広さの敷地を有し、宮城よりもたくさんの建物を抱えている。巨大な講堂、巨大な図書館、そして男女それぞれの巨大な学生寮群もそこにあった。

必要な単位を取得したらすぐ卒業してもかまわないし、専門課程に進んでもいい。在学中から軍にスカウトされる魔導士候補もいる。大抵は在籍できる二十二歳ギリギリまで学んで、卒業したら得意分野の資格をとって魔術師になる。軍属の魔導士以外を魔術師と呼び、その仕事は多岐に渡った。
黒地に金糸の縫い取りが施された服を着て、ピカピカに磨いたブーツをはいて街を闊歩しているえらそうなやつがいたら、それが魔術師だ。そして彼らが入り口の前で立ち止まり、身なりを確認してから入っていく建物があったら、それが泣く子も黙る魔術師組合なのである。
ネーナの義父が長を務め、彼女が日々勤労奉仕している場所であった。

開場の鐘とともになだれこんできた人々の中には、黒い制服姿の少年少女もちらほら見られた。休日でも学院の制服を着て歩くのは、それが彼らにとってステータスだからである。未来の魔術師らしく黒尽くめで飾りけのないデザインだが、それだけに晴れ着姿の人々の中でとても目立っていた。
彼らも何年かしたら、自分のところに薬草を煮る鍋を買いにくるにちがいない。たとえ今は目の前を素通りしていたとしても。

店先に置いた丸椅子の上で自分の膝に肘をつき、ネーナは行き交う人波を眺めていた。はるか東の空は薄日が差しているようにも見えたが、この宮城前広場には突き刺す寒さが居座っている。
「寒い……」
低いつぶやきは呼気に混じって舞い上がり、背後で鍋を磨いていた同僚の耳に届いたようだ。
「え? なにかいった、ネーナ?」
その、野太くも人のよさそうな明るい声に、ネーナは膝に肘をついたままグルンと振り返った。

「寒いよ、バニー。身も心も懐も。もっと上等なコート着てくればよかった、持ってないけど」
「もっと上等って……いま着てるので十分じゃないの」
そのあきれ声ももっともだ。ネーナがまとう黒いコートは、素人目にも高価に映る。光沢のある布は足首まで届く長さ、首元を飾る白い毛皮は、毛足は短くとも密に生え揃って冬の風にやわやわとそよいでいる。バニーが着ている組合支給の安物とは、暖かさも値段も桁がちがう、一介の団体職員には過ぎた品だった。
「それ以上なんていったら、組合長が鼻血を噴くわよ。せっかく買ってくれたのに」

小さく笑って、バニーは鍋磨きの作業に戻った。ネーナが抱えたら手が届くかどうかも怪しい直径の大鍋だが、バニーの前では小鍋に見える。やわらかな物腰と口調、優しげな声で話す彼は、小山のような体躯を誇る「身体が男、心は女」の複雑な人だった。
「くれっていったわけじゃないもん」
「あらぁ、すごく喜んだくせに。そんなこというと罰が当たるわよ」
「当ててみろっつんだ」

ごつい手で意外と繊細に隅々まで鍋を磨き上げる彼を眺めながら、ネーナが肘をついた姿勢のままカクカクと顎を動かす。
「仕事が終わったら黒山羊亭で一杯やろうよぉ。ていうかもう帰っちゃおうぜ、お客なんか来ないし。みんな闘技会がお目当てなんだし。ていうかわたしもそっち行きたいし」
言い終える前にバニーの向こうから咳払いが聞こえ、唇を尖らせ渋い顔の組合長が現れる。しかしネーナは動じることなく、義父の突き出たおなかを指で突ついた。
「やめなさいっ! 行かせてあげたいんだよ、ネーナ、私だって本当は! でもね、新年初日の朝のうちは出てきてくれる職員が少ないんだ、飲み明かしたまま来られても参っちゃうし……。それにうちは昼過ぎになると忙しくなるんだよ、魔術師どもは大抵宵っ張りだからね」

言い訳がましく釈明しながら、義父はがばっとばかりにネーナを頭から胸に抱きこんだ。冷たくなった布地が頬に押しつけられるわ、おっさん臭いわ、丸い腹でボンボン頭が跳ねるわ、ちょっとした虐待である。
「ちょ、っお、離せッ!!」
ネーナが渾身の力で突き飛ばすと、父は鞠のように弾んでバニーの背中にぶつかった。鋼の背筋に打ちつけたらしい背をさすり、それでもにこやかにいう。
「闘技会に行きたかったらさ、せめて誠意を見せてごらんよ。パパはネーナが喜んで労働する姿が見たいなぁ! たとえばほら、バーンのように鍋を磨くとか――」

「やだもぅ、組合長ったら! バニーって呼んでくださいッ」
恥じらうように身体をくねらせたバニーにさすっていた背中をどつかれ、組合長はたたらを踏んで商品の壷にしがみついた。そのままもろとも倒れそうになるのを必死でこらえ、壷の陰に隠れながら二人を睨む。
「と、とにかくそっちは裏口から入れるよう手配しておくから、休憩時間まではまじめに働いておくれよっ!」
言い放つと、組合長はそそくさとテントの奥に消えて行った。

トランティア魔術師組合といえば大陸最大の職業組合(ギルド)でもあるのに、その元締めときたら文字通り玉のようにコロコロとネーナたちに転がされている。
「まじめにって言われてもねぇ」
鼻の頭に皺を寄せ、唇を片端だけ吊り上げてつぶやくネーナの顔は、組合長でなくとも張り倒したくなるほど憎々しい。なまじもとの造作が悪くないだけ、目も当てらないほどの凶悪さだ。
「なぁに、今日はまた一段とご機嫌斜めなのね」

顔が映るほどピカピカに鍋を磨き終えたバニーが、次の獲物――計量スプーンともいう――を手に取りながら笑った。ドワーフから仕入れたアクセサリーやら、特級の認定を受けた職人の作品などは、テントの奥でケースにしまわれて組合長が見張っている。
通路際の店先に並んでいるのは、精々が物質界第一層第二位階までしか手の入れられていない安物だ。要するに表面だけちょこっと魔術で加工した、紛い物に近い。天然の魔導鉱製や、細工の法界深度の高いものは、目玉が飛び出て零れ落ちてもまだ足りないほど高価である。
もっとも、魔術師の末席、下の下の下くらいに名を連ねるネーナには、複雑怪奇で意味不明な魔導工学など、そもそもが理解の範疇のはるか先だ。

「ここんとこさぁ、夢見が悪いんだよね。なんかわけわかんない、黒いような赤いようなドロドロした夢見て、夜中に飛び起きんの。寝不足だよ」
目の下の隈を指差し、見ろとばかりに相棒を振り仰ぐ。仰がれたほうは、他人の分まで貼りつけたような極太眉毛を寄せた。
「あらまぁ。睡眠不足はお肌の大敵よぉ、今夜はゆっくり眠れるようにハーブティでも飲むといいわ」
言いながら、いそいそと陳列台の上の薬草を見繕い始める。東方からはるばるやってきたという、それは立派な売り物なのだが。

ネーナは軽く息をつき、再び丸椅子の上で通りに向き直る。人の流れは会場の中央に向かっていて、今日この催事場が新製品の魔導用具展示即売会のために設けられていることを、完全に忘れているようだった。軽く身を乗り出してみれば、ゆっくりうごめく人の頭の向こうに、屋外闘技場のそそり立つ壁が望めた。
「蟻じゃないんだから、ぞろぞろぞろぞろ行進すんじゃねーっつの」
さすがに小声で悪態をつけば、薬草を紫色の細いリボンで束ねつつバニーが応える。
「仕方ないわよぉ。今日の闘技会は天覧試合、陛下の名代でメイがご臨席なさるんだもの」
どこかうっとりしたその声に、ネーナはため息を返した。

トランティア女王国現在の王太子が、二十四歳になるガリオン・メイ。メイはある特定の条件を満たした太子に与えられる尊称で、様や殿下といった敬称は必要ない。
母系で継ぐトランティア王家にあって、史上三人目の男の太子である。滅多に人前に出ないが美男子であることで有名な王子だけに、闘技会のチケットが即日完売したのも無理はなかった。

しかしだからといって、自分がいま寒さをこらえつつヒマを持て余しているのは納得できない。腹が立つほどの寒空の下、モノはいいが買い手の少ない大鍋を見張る作業は果てしなくくたびれる。日が暮れるまで座っていたら、尻もしびれてカチコチに凍ってしまうだろう。
「だから休日手当てが高いんだな! くそぅ、組合長が直々に出張るなんてきっとおもしろいことがあるにちがいないと踏んだのに」

昨年のこの日は、集合住宅の自分の部屋で爆睡していた覚えがある。一昨年はまだ新人だったので、仕事があることすら知らなかった。年末にあらためて同僚にどういう業務になるのかと尋ねたら、皆奇妙な笑みで「需品課の一員ならば是非その目で見るべき素晴らしいイベントだ」という旨で口をそろえた。無垢な生贄を逃すような心ある職員が皆無だっただけのことだと気づいても、後の祭りである。
口汚くつぶやくネーナの肩に手をついて、バニーがころころと笑った。

「ネーナったら、おバカさんねぇ。ほら、お客様第一号よ」
太くたくましい指が示す先に、茶色のコートを着た男が立っていた。テントの入り口あたりを見渡し、なにか探している様子だ。
「ふぅん……ほんとにいるんだ、客」
仕方なく重い腰を上げ、ネーナは肩を回した。石像にでもなった気分だ。

男はコートと同色の鍔なし帽をかぶっていて、砂色の襟足がわずかにはみ出ている。探し物があるなら案内しなくちゃならんな、と思って見ていると、男と目が合った。
「あ、お願いできますかぁ?」
やけに間延びしたしゃべり方だ。お願いされたくはないが、拒むわけにもいくまい。それでもぎこちない営業スマイルで応じる。
「なにかお探しですか?」

お探しだから呼ばれたのはわかっているが、常套句だから仕方ない。ネーナの醸す白けた空気に、だが彼は気にした風でもなく、髪と同じ砂色の目を細めて微笑んだ。その眦はやや垂れ気味で、左の目尻に泣きボクロがちょんと乗っている。
「武具の類はないですかぁ? 細工深度の高いやつがいいんですけど」
その言葉に、ネーナは思わず男の姿を上から下までまじまじと見た。

線の細い女顔、ひょろっとした体格。彼が魔術師の正装をしてもまったく似合わないだろうに、武具が必要とはさらに意外だ。
「え、っと……どれくらいですか? その、法界深度とか、予算とか。実戦用――じゃないですよね」
壁の飾りならともかく、魔導処理された武具を実戦に用いる人種は限られる。というよりも、黒竜騎士か、白鷹騎士団の魔剣士くらいなものだろう。銀狼騎士の線もなくはないが、前の二人種と異なりガチガチの女王信奉者かつ戦争屋である彼らが、騎士団の支給品以外を携行するという話は聞いたことがない。わざわざ自腹を切ってバカ高い武具を、しかも女王から賜るそれでは足りないといわんばかりに買い求める必要がないからだ。

ネーナがよほど怪訝な顔をしたからか、男は眦ばかりか眉尻まで下げて苦笑を浮かべた。
「いまのところ使う予定はないですけどぉ、せっかくだから。法界深度は高ければ高いほど、予算はそれに応じてってところかなぁ」
なにが「せっかくだから」なのかは不明だが、客がそういうならこれ以上の詮索はできない。そもそも一定以上の細工がなされた品物は、ネーナの手に負えるものではない。

どうやら男は上客のようだと気を取り直し、ネーナはテントの中を振り返りながら答えた。
「多分、奥にあると思います。組合長がご案内するので、少々お待ちいただけますか」
だが奥の陳列台の前に丸々とした背中を確認し、首を戻すと、そこに男の姿はなかった。
「え? あれ?」
あわててあたりを見回すが、広場に向かって進む群集の行列があるばかりだ。ネーナは唖然としてつぶやいた。
「冷やかしかよ……」
なにがしたかったんだ、あの客は。一瞬でも真面目に応対しようとした自分がバカみたいだ。

その憂さをバニーの背中を殴りつけて晴らし、両手を振り回して嫌な客だったと訴えると気が済んだ。
「第一号があれって! ヘンな客ッ!」
「魔術師なんて、みんな大抵ヘンじゃない。さ、行きましょ」
「どこへ」
人型の小山を見上げると、それはテントに入ってくる眼鏡の青年を指差していた。薄日に淡い金髪がきらきらと光っているのが、遠目にも見てとれる。

「あれ、ジール……? 朝、会わなかったけどな」
「いいじゃない、いま来てるんだから。彼に店番を押しつけてあったかいものでも食べましょ。それから闘技場へ行っちゃうのよ」
バニーのウィンクは怪物も逃げ出しそうな迫力だったが、ネーナはとにかく腰を上げてうなずいた。
「組合長のお守りは秘書に任せろ、これ常識」
初めて聞いたがありがたい常識である。
ネーナは足音を忍ばせ――そんな必要はなかったが――そっとテントを抜け出した。
人の波に乗って流され始めたとき、背後から義父の悲しげにわめく声が聞こえた。

2010-12-27

魔術師組合という小説を転載ー序章

Filed under: アバクロ, 転載小説 — admin @ 20:37

昔むかし、そのまた昔の大昔。アバクロ
王国がまだバルファイという名でなかったころ。
大神バルフィクスは、いまのオタール湖の上に大神殿を構え、弟妹神とともにこの地を治めていらっしゃいました。

あらゆる魔法を自在に用い、雨を降らし、あるいは日照りにし、この地に住まう人間をより善き人にしようと導かれました。
隣人への善行を尊び、悪心抱く者を決して許さぬ御心は、弟妹神にも通ずる神の掟となりました。

あるとき、大神は妹神セレスティンに、罪人に拷問をするようお命じになりました。
女神セレスティンは心優しく、兄神の厳しい裁きから、いつも目をそらしておしまいだったからです。

ところが女神はその命令にひどく怯え、大神が斬首に用いる、断罪の剣を持ってユグナール火山にお隠れになってしまいました。

断罪の剣は、ユグナール火山の溶岩を、嵐によってもたらされた雨水と、火竜の息吹で鍛えたこの世にひとつの宝剣です。女神はその貴い宝が人の命を奪うことを嫌い、またそれを振るう兄神を、恐れ多くもお嫌いになっておいででした。

やがて他の兄弟神の追っ手がかかったことに気づいた女神は、もう隠れていられないと悟り、断罪の剣でもって両目をついてしまわれました。
もう人の罪悪は見たくない、人々の罪悪を記した書物も読まずに済むし、罪人の見た目に惑わされることなく、すべてを赦してしまえるとお考えになったのです。

女神の所業を知った大神は、たいそう怒り、大神殿にあった神の国への扉から、弟妹神をつれて神の国へお帰りになってしまわれました。一人の妹神が、二目と見られぬ傷を負ったセレスティンを捨て置くこともできず、こっそりつれていきました。

時を同じくして、女神の切り裂かれた目からこぼれた血を吸ったユグナール火山は乱れ、暴れ、とうとう大噴火を起こしてしまいました。

噴き出した溶岩は、火山の裾野を流れ流れていまのオタール湖まで及び、ついにそこに住む人々とともに大神殿を飲み込んでしまいました。

溶岩が地を溶かし、できた大穴が、オタール湖になりました。そして南へ南へと下った溶岩が、草原の風に遮られ、留められ、盛り上がってできたのが、ゲティホルン山脈です。

そのとき南の平原まで飛んだ大岩のひとつが丘となり、その上に、いまのトランティア女王国の最初の城塞が築かれました。

大神には人の女に産ませた双子の男の子がおりましたが、半分人では神の国へ渡れず、さりとて溶岩の熱に溶けてしまいもせず、この世に取り残されてしまいました。

お二人は大災害の日よりずっと、そしてこれからも永久に、王国の城の奥深く、冷えた溶岩で作った玉座についておいでになるのです。

二十四年前

女王が産気づいた――そう報せを受けた女王の夫君は、窓の外で吹き荒れる風がごうごうと喧しくて、報告の近侍の耳に顔を寄せた。
「聞いていたより早いよ、無事に生まれてくるかい?」
問われた壮年の近侍はわずかに眉を寄せ、しかし強い光を浮かべた目で彼を見つめた。
「御子はお二人にございます、出産が早まるのはままあること。陛下は初産、お時間もかかりましょうし、予断は許さぬ状況にございます。しかし折よく、先ほど黒の塔よりお客人が到着され、いち早く産屋に向かわれました」
その言葉に、夫君は形よい唇を歪めた。だが何事も口にすることはなく、目的の場所へ向かう脚を速める。

すでに夜半近い時刻。要所で警備兵の姿を見かける以外、すれ違う人もなかった。もとよりこの宮殿には、女王をはじめとする直系の王族のほかに住まう者はない。こんな嵐の夜では、彼らの親しい友人達も出向いてきてはいないだろう。

夫君は妻を思った。ともすれば平凡に見えそうな顔立ちだが、空より高い矜持と、産声を上げたその日以来、二十四年かけて培った自信に縁取られ、あふれ出す輝きが彼女を美しく彩る。あまりに細いあの身体で、男には欠片も想像できないと産婆が笑った苦しみに耐えているというのだろうか。
妻を思えば、その膨らんだ腹も思い出す。懐妊が判明したと思ったら、急激に膨れたその腹を見て、侍医は双子だといった。二人産むのは、一人産むのとなにがどれほどちがうのか、彼には見当もつかず途方に暮れた。

東のはずれに用意された産屋には、ひっきりなしに女官たちが出入りしていた。沸かした湯の桶を抱えていたり、白く清潔な布を運んでいたりと、あわただしい。夫君はその中に見知った魔術師の姿を見つけて、息を飲んだ。
知らず脚がとまり、従っていた近侍が怪訝な表情を向けてくるのがわかったが、取り繕う余裕もない。とりあえずは彼を案内するという役を終えて、壮年の近侍は一礼を残して歩み去って行った。

その部屋で愛しい妻がひとり闘っているのでなければ、彼も踵を返して即刻この場を離れただろう。だが一瞬の逡巡も許さぬタイミングで、魔術師がこちらに気づく。
小さな会釈とともにゆったりと歩み寄り、その魔術師は彼の前に立った。中肉中背、年齢的にも中年の域に差し掛かろうという男。背丈ならば勝っているけれど、あと他にどこでこの魔術師を上回れるか、自分でもすぐには答えられない。

二十代半ばの彼よりもはるかに精気のみなぎる眼光に気圧されて、足がすくむ。
「お久しぶりです、殿下」
「……ダーレン、グラヴィール――」
名前をつぶやいたきり押し黙った彼に、魔術師は――ダーレン・グラヴィールは目を眇めて眉を上げた。言うべきことがあるだろう、といわんばかりの表情に、彼はぎりっと奥歯をかみしめた。

殿下と呼んだか。そうか。
では今ここで、彼は昔馴染みの友ではない。発言になんの価値もないお飾りであっても、王婿として威厳を保つ努力をする権利はある。
「――警護の任、ご苦労だったね。この嵐で旅程が乱れてはいけないと、心配したよ」
だがそのセリフは、ダーレンの中で的をはずれたようだった。眇めていた目を軽く瞠り、不遜な角度まで顎の先を上げて首を振る。
「長(おさ)は決して違(たが)えませぬ。今日この日と長がおっしゃられれば、御子は必ず今日お生まれになる。そして長が取り上げられるとおっしゃったならば、我々は必ず間に合うのです」

ダーレンの声にどこか嘲弄する響きを聞き取り、彼はぐっと拳を握った。だがそれに気づかれるのは絶対に嫌だったから、さりげなく背後に回して隠した。
「違えない、か。君は本当に、僕を愉快な気分にさせる言葉をたくさん知っている」
「魔術師を廃業したら、道化師としてお抱え下さるか」
精一杯の皮肉も、ダーレンに唇の端であしらわれた。
もしそうなったら、さぞ宮廷のおしゃべり雀達が慄くことだろう。だがそれが実現することはありえないから、彼は顔の筋肉を総動員して笑みをつくってみせた。

不毛な遣り取りを終わらせる決定打を脳裏に模索している最中、急に産屋から女官達が一斉に出てきた。それを不審に感じた彼は、すぐ最悪の事態に思い至って青ざめる。
「なにがあった、陛下は? 子どもは?」
女官のひとりの腕をつかんで問い質すと、母親ほどの年齢の女官は小さく首をかしげた。
「陛下のお客様が、残らず出て行くようにとおっしゃられて……」
長か。
思わず踏み出しかけた脚を、猛烈な意思の力でとどめる。長が出て行けといったなら、自分も中には入れない。無理をとおして行ったとて、できることなどなにもなかった。
だがここでダーレンを相手に愉快な会話を再開させるつもりもない。彼は産屋の前の壁に寄りかかり、母子ともになんの問題もないという報告だけを待つことにした。

出産は時間がかかるものだという。まして初産ならなおのこと。朝までに産まれればよいほうなのかな、と覚悟して椅子でも運ばせようかと思い始めたとき。
扉の向こうから甲高い泣き声が聞こえてきた。
「あ――」
気づけば産屋の扉に飛びついていた。部屋の中まで飛び込まなかったことを、褒めてほしい。永劫そりの合わない魔術師が背後で嘲笑を浮かべているのは確実だったが、振り返って確認したいとは思わなかった。

ほどなくそっと扉が内側から開き、彼らを招き入れる声がした。
震える足で静かに入室すると、分厚いカーテンで窓を覆った室内には、小さな手燭がひとつ灯るきりだった。
普段使うものとは比べ物にならないほど簡素なベッドの上で、妻が荒い息をついて横たわっている。彼はふわふわとおぼつかない足取りで、だが素早く歩み寄った。
「お疲れ様……」

枕辺に膝をついて囁きかけると、妻は目を閉じたままうなずいた。汗ではりつく前髪をのけてやり、上気した額に口づける。首をめぐらせて赤子の姿をさがせば、産婆よろしく取り上げた長が、布の塊を抱いているのを見つけた。長の手が布をかきわけ、顔を見せてくれる。両親と同じ黒髪で、母親と同じ癖毛だった。
「ああ、元気に泣いてるね。男の子? 女の子?」
思わず涙ぐみながら尋ねると、妻はひとつ大きく息をついて、男だといった。
では未来の国王にはまだ会えないな、と軽口を叩こうとして、はっとする。

腹にいたのは、双子だったはずだ。もうひとりは――。
薄暗い部屋ではあっても、広さはない。それらしいものをさがして視線をさまよわせば、妻が気づいて指し示す。台をはずせば揺り籠になる、小さな小さなベッド。
妻の手をぐっと握ってから立ち上がり、彼は勇気を振り絞ってそこを覗いた。癖毛の赤子と同じように布にくるまれ、しかし産声をあげない赤子を見つめ、彼は青ざめた。自分と同じまっすぐな髪質をした赤子は、ベッドが大きく見えるほど小さな身体でぐったりと横たわったきり、動く気配を見せなかった。
「お、長……!」

だが俄か産婆は、彼と反対にまったく落ち着き払って首を振った。
「眠っておるだけじゃ」
「そ、そんな! だって産声をあげて初めて呼吸をするんだって――」
「いらぬ」

実にあっさりと断じられ、彼は妻を振り返る。妻は目を閉じて呼吸を整えるばかりで、彼の不安を払拭してはくれなかった。
ふら、と影が揺れた。

顎をつかまれたように首を向けると、長が腕に抱いた赤子を捧げるようにしてみせた。それから音もなく、女王の傍らにその子を横たえる。
「十四になったら、こちらの御子を太子にされよ。ただいまより、陛下の御子はこの方お一人。そちらの」
と、長はベッドに捨て置かれた赤子にちらりと一瞥を寄越し、また妻へと視線を戻す。
「二番目に生まれ出でた身体は、ダーレン・グラヴィールに託されるがよかろう」
「な――」

あげかけた抗議の声は、だが彼の妻によって遮られた。彼女は産褥についたまま、まだ火照った頬を引きつらせるようにして彼を見つめた。
「黙れ、そなたに嘴を挟む権利はない」
その凛とした、しかし君主の衣をまとった声音に圧倒され、彼は口をつぐんだ。それを見届けてから、女王は長に視線を転じた。
「長よ、それはこの子に『メイ』の称号を与えるということに相違ないか」
「いかにも」
「――よかろう。ダーレン、それを持って行け」
これには彼の我慢も限界だった。
思わずベッドの中の――彼によく似た赤子を抱き上げて叫んだ。
「ちょっと君、それって言い方はないだろう! この子だって僕らの――」

「黙れ」
女王はあくまで冷静に、もう一度彼の言葉を遮る。いい加減腹に据えかねて彼女を睨むと、彼女の深い青の瞳は静かに夫の腕に抱かれた赤子を見つめていた。それは母としての愛情を確かに含んで揺れていて、不憫なこの子を自分だけでも守らねば――そう意気込んだ彼の心はしゅるしゅると萎んだ。
「殿下のお気持ちは汲もう。だがお生まれになった御子はお一人、それだけのことよ」
長の言葉に、彼はきしむ首筋を無理にめぐらせてそちらを見やる。滝のような黒髪をさらりと流し、長は扉へ向かう。

「星が必要であると告げたとき、再びお目にかかろう」
それが質問や抗議は一切受け付けないという意味の拒絶であると、そこにいる全員が察した。
そして長は、黒のローブを引きずって産屋を後にした。ダーレンが王子を彼の腕から取り上げ、おざなりな一礼をつけ加えて去って行くのを、彼はただ見送るしかなかった。

十年前

「ダーレン! ダーレン・グラヴィール!」
回廊の先を行く後姿を見つけ、考えるよりも先に大声で呼び止めていた。訝しげな侍従をそこに留め、立ち止まった人の元へ駆け足で寄る。

背に垂らしたフードのついたローブの色は白。襟元から裾の縁を飾る金糸の縫い取りは、古語を混ぜた魔導式の文言。携えた身の丈ほどの細い杖は白磁色に輝いて、細かな黄金細工で真紅の石を留めている。
「すまないけど、ちょっと……いいかな」
探るように尋ねると、魔導士は肩をすくめて無言で了承の意を示した。久方ぶりの再会だというのに、感慨の欠片も見せない。

彼より十は上だが隙なく引き締まった体躯は決して大柄ではなく、それでいて言いようのない威圧感を全身で醸している。何年か音沙汰がなかったと思ったら、ふらっと宮廷に戻ってきた男。そのブランクを感じさせない精力的な活動で、瞬く間に国内の魔術師たちと、それから魔導士たちを――白鷹(はくよう)騎士団を掌握してしまった。
優秀な魔導士だと思う。それは間違いない。自分のような凡人には、到底及ばないレベルの人物だ。子どものころから、彼の背中ばかり見上げてここまでやってきたような気がする。

しかし、と、鋭い眼光に震えそうになる拳をぐっと握る。言わなければならないことがある。彼は小さく息を飲み、以前から胸につかえていた思いを吐露した。
話を聞き終えたその魔導士が軽く身じろぎをすると、袷がずれて淡い灰色の服が覗いた。詰襟にわずかな装飾がほどこされただけの、型だけは他の騎士服と同じだ。
「おっしゃる意味を理解しかねますな、大公殿下」
その声は低く張りがあり、どこか嘲弄を含んでいる。上げた片眉もがっしりとした顎の角度も、これを不遜と呼ばずしてなんと呼ぼう。彼は十四年前の嵐の晩を、ふと思い出していた。

何年たっても身になじまない敬称に内心怯みつつ、それでも精一杯、自分より頭半分背の低い魔導士を見下ろす。
「だ、だから――君が私に、その、そういう態度をとるのは……本当は、陛下に特別な気持ちを抱いているから、なのだろう? だとしたら、少しでも、そう、話し合うべきなんじゃないかと――」
つかえながら、それでも心からのいたわりをもって言葉を紡ぐ。

だが魔導士の濃い緑の瞳は、言い募るほどに温度を失っていった。そしてそこに霜が降りそうなほどの冷気を読み取るころには、彼を呼び止めたことを激しく後悔していた。
「……なるほど。シグワード大公殿下は、おしゃべり雀どもの噂話を信じられたか。私が主君に、貴方の奥方に道ならぬ恋をしているという、あれを。しかも失恋を逆恨みして、浅ましく嫌がらせをしていると」
その声に滲む不快感と怒りに、彼は気圧されて一歩後ずさった。

「ち、ちがうのかい? でも私は他に、君から恨みを買うような覚えは――」
「つまり私を、悋気に駆られて我を忘れる小者、とおっしゃるわけか。しかもそれをご理解なさった上で、哀れな敗者に憐憫をかけて下さる」
「ダーレン、私はなにもそんな――」
あわてて否定しかけるが、そうとられてなんら間違いのないことを口走ったのは自分だ。シグワードはまっすぐに自分を見上げる緑の瞳から、目をそらした。視界の隅で白磁の杖にはめられた黄金の石突が、こつんと大理石の床を打つ。

「辺境の貧乏貴族の次男坊が、並み居る大諸侯の子弟を押しのけて見事王婿の座を射止められた。その首尾に遅ればせながら称賛を贈る代わりに、ただ今のお言葉は聞かなかったことにしましょう。そしてこれ以降も、聞くことはないでしょうな」
その類の言葉を陰で聞くことはあっても、ここまで露骨に侮蔑されたことはない。シグワードは表情をかえ、ダーレンを睨みつけた。

「君は私を、いや陛下を侮辱するつもりかい?」
「私は貴方がうまくやられた、と申し上げたのですよ。恨みを買ったおつもりはないのでしょう? 私もお売りした覚えはない」
ふっと鼻先で笑われ、腹の中に怒りが湧いた。
だが彼とどこでなにを比較しても、勝てることなど一つもない。それを忘れ、嫉妬だけが理由だろうと言い放ったのは、身の程知らずだった。片腹痛い勘違いの上に立ち、我知らず優越感に目が眩んでいた、とするならば、浅ましいのは己のほうだ。

継ぐ言葉に詰まり、的外れとわかっていながら、彼は苦し紛れに吐き出した。
「……どれだけ空々しく聞こえても、私たちが愛し合って結ばれたことは一点の曇りもない真実なんだよ」
「ほう、殿下はいつの間に愛のなんたるかを心得られたか」
大袈裟に両腕を広げ、口の端に嘲笑を浮かべて見せたダーレンの仕草は芝居がかり、シグワードは頭に血が上るのを感じた。

しかし彼が口を開くよりも先に、ダーレンの目がすっと眇められる。緑の炎が立ち上ったように見えた。
「ではなぜ、私の内にも同じものがあるとは思われない? 私のそれが、決して陛下に向かってはいないとお気づきになられないのだ」
囁くように低められた声に、シグワードは一瞬意味を図りかねた。そしてその言葉を飲み込んだときには、白衣の魔導士は踵を返して立ち去りかけていた。
「ま、待ってくれ、ダーレン! では君には、別に想う女性があるというんだね?」
歩みを止めぬまま肩越しに向けられた緑の瞳には、隠すつもりのない蔑みと、哀れみが浮かんでいた。

七年前

それが雲ひとつない青空の、天気のよい日だったから、そんな日はいつも思い出す。
赤ん坊から十五歳までの子どもしかいないというのに、その孤児院は奇妙なほど静かだった。世話係は決して声を荒らげず、いたわりと誠意をもって接してくれる。だがそこにあるのは愛情から程遠い職業意識と義務感だけだと、幼心に皆悟っていたし、互いに肩を寄せ合っていても孤独だった。

不自然な穏やかさで流れていく日常を壊したのは、緊迫した空気と怒鳴り声をまとってやってきた男。偶然院長室で健康診断を受けていた少年は、男が飛び込んできた場面に遭遇した。
わけのわからないことを叫び散らして院長に迫る男の腕には、小さな人が抱かれていた。呆気にとられて立ちすくむ少年はそれに気づいたとき、ひどく美しい死体だと思った。

翌日から大部屋の隅っこを定位置にしたそれは、とても可愛い女の子だった。
普段はそんなことしないけれど、人形のように静かなその子が妙に気になって、つい声をかけてしまった。
ふわふわした茶色の髪と、同じ色の大きな目。白い頬に胸がドキっとした。でもその目は虚ろで、唇はぼんやりと薄く開いている。
……ちゃんと息をしているのかな。
思わず屈み込んで、口元に耳を寄せた。細くてかすかだったけれど、吐息を確かに感じる。顔を離して間近に見ると、その子は本当に等身大の人形のようだった。
じろじろ眺め回しても、なんの反応もない。触ってみようと手を伸ばしたとき、不意に大きな目から涙が零れ落ちて、心臓がとまりそうなほど驚いた。触ろうとなんてしたからか、後ろめたい気持ちで混乱した。

女の子は動かない表情のまま、はらはらと涙を流し続ける。
――オレのものだ。
唐突に、なぜかそう思った。この子はオレのものだ、オレが面倒を見なくちゃ。十二歳男子の思い込みは幼くて激しくて、でも本当に真剣だった。
その日から三年、少年は女の子を抱きしめて過ごした。
献身的に世話をするうち、音に反応するようになり、目の焦点が合うようになり、彼を見つめ返すようになり……やがて、ぎこちなく唇の端を上に曲げるようになった。程なく、彼女がとても高くやわらかい声で話すことを知った。
花が咲いて春の訪れに気づくこと。おなかがいっぱいでなくても満足だと思えること。凍える夜を寄り添ってやり過ごすこと。わけもなく寂しいときは、手をつないで沈黙に身をゆだねること。
愛とか幸せとか、温もりとか、みんなその子が教えてくれた。

だから思う。
取り上げられるばっかりの人生は、もうごめんだ。

少年は薄暗い路地裏にひっくり返って、建物の間から見える狭い空を睨んだ。バカみたいに澄んだ鮮やかな青、それは彼自身の瞳と同じ色。
身体を起こそうと試みれば、全身をなんだかいろんな痛みがどっと突き抜けて脱力する。殴られ蹴られ、壁に叩きつけられ、腕を捩じり上げられれば、それはそうだろうと我ながら感心した。骨を折られる前に謝ってよかった、と心底思う。

でも一体、自分はなにを謝ったんだろう。
パンを盗んだことか? だけどパン屋の親父にとっ捕まって殴られるならわかるけど、そこらのゴロつきに小突き回される謂れはない。すれ違う人たちから財布をスってたのだって、同じだ。あがりを横からかっさらわれるのに、納得なんてできない。
青い空を寝転んだまま見上げて思うことは、ただひとつ。
ああ、今日もまた飯抜きか。
あらゆる痛みに顔をしかめつつ身を起こし、決意したこともただひとつ。
もう二度と、つかんだものは奪わせない。

現在

その部屋に主が一人でいることは、特段珍しいことではない。
近侍を控えさせるでもなく、騎士の警護もつけず、正しく腹心たる側近の姿も見当たらない。ただ天井が高く、広い部屋に置かれた特大の執務机に、気だるげな雰囲気をまとわりつかせた主だけがいた。
だがこの人が憂鬱そうにしていることは少ない、よくない兆候だ。

彼は重苦しい空気を払うように首を振り、平静を装って主の机に近づいた。そして勧められもせぬうちに、その前に置かれた長椅子に腰を下ろす。
「……来たか」
間近で見ても、主の端麗な相貌は優れない色を浮かべている。片膝を胸に引き寄せ、くつろいだ様子を演出した。
「お召しとあれば、いつどこへなりと参上しますよ?」
その軽口に、主の形よい眉が少し上がる。お愛想で応じただけだと、すぐにわかった。

しばし手元のペンをいたずらにもてあそんでから、ふっと息をつき、主は椅子から立ち上がった。君主の息子とは思えぬ砕けた服装、手櫛を入れただけの癖の強い黒髪。
「俺が戴冠までに片づけておきたい、と思ってる仕事はいくつかある」
それが本題なのか前置きなのか、瞬時には判断しかねた。確かに抱えている案件は多いし、もう何年も前から手がけている事案もある。
「まぁ、あの陛下はあと五十年くらい現役で頑張りそうだから、太子のまま終わる可能性も否定はできんがな」

自分の母親のことを話しているというのに、その顔は苦りきっている。小柄で横暴で極局地的な嵐の如き君主は、そば近くにいると迷惑な御方であるが、為政者としては特一級の腕前でもある。並み居る列強を抑えて西大陸で頭をとっているのだから、腹黒さも天下一品なのだろう。
母親を知らない彼は、主と君主の規格外ながらも腹蔵ない親子の遣り取りを見るのが嫌いではなかった。立場的にそのまま自身を投影するようなことはないが、子どものころを少しだけ思い出す。もっともそのときは、彼が親のようなもので……。

「おまえの探し人が見つかった」
柄にもなく思い出に耽っていたためか、反応が遅れた。言われた言葉の意味を飲み込むのに、時間がかかったのもある。
ぎこちなく顔を上げると、いつの間にか酒瓶を手にした主が向かいの席に座っていた。蝋燭の灯りを反射する美しいカットの入ったグラスが差し出され、操られたように受け取る。
「見つかった――わけではないか」

低められた小さな声に、ぎくりと身が強張る。美しい死体だと思ったあの日の光景が甦り、不吉な感想を抱いた自分に罰が当たったのだと、わけもなく信じた。
「……まさか」
みなまで言えず絶句した彼の顔色がよほどひどかったのか、顔を上げた主は軽く目を瞠った。そしてすぐ苦笑を浮かべ、ゆるゆると首を振った。
「そうじゃない。そうじゃなくて……」

言いよどむ主の表情は、自嘲にすりかわっていた。その理由がわからず、一旦は引いた不安が舞い戻って胸が重くなる。
「はっきり言って下さい。彼女はどこにいるんです、無事なんですか?」
身を乗り出した拍子に、グラスがテーブルの縁にあたった。澄んだ音で我に返ったように、主はひとつ大きく息をつき、彼をまっすぐに見つめた。
「無事でいるとも、いないとも言えない。……まず、俺の話を落ち着いて聞け。十年前、彼女が孤児院に預けられ、三年後、突如おまえの前から姿を消した理由だ」
深い青の瞳が底冷えする光を浮かべ、彼は魂が縛られるのを感じた。

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